Open 18:30/ Start 19:00〜
MC:¥4,000(別途1ドリンクオーダー)
滝沢 望(Vo)/ 下田 雄人(Gt)/ Nobu K(Key)/ 田中 晋吾(Ba)/ 大津 惇(Dr)
ご予約はWebサイトから ライブ配信予約Takayama Zenkoji Temple is a branch temple of the famous Zenkoji Temple in Nagano, and is one of the few temples in the country where visitors can experience the 'Kaidan Meguri'.
The temple also welcomes tourists as a shukubo (temple stay) and is a power spot temple that is very popular among overseas visitors for its familiarity with traditional Japanese culture and Buddhism.
The synergy of JAZZ-based music and Relax Yoga will refresh your body and mind while you enjoy the tranquillity of a Buddhist temple.
We aprreciate it if you experience a time of relaxation and relief from the fatigue of daily life.
This performance will be held as a Noto Peninsula Earthquake Charity Event.
A donation box will be set up on the day.
Takayama Zenkoji Temple
Address: 4-3 Tenman-machi, Takayama, Gifu 506-0025
TEL: (Int'l) +81-577-32-8470
(Domestic) 0577‐32‐8470
Mail: info@takayamazenkoji.jp
https://oterastay.com/zenkoji
Please let us know your name, number of people and telephone number when you register.
If you are coming by car, please let us know in advance.
START:13:30 〜 / END:15:00
Tickets:¥4,000 ※ ABootle of Water&Gifts
Member:滝沢 望(Vo)/ 福井 亜美(Pf)
※善光寺ライブについて、駐車場はお近くのコインパーキングをご利用ください。
会場詳細 会場アクセス ライブに関する予約受付・問合せ物語る人、滝沢 望
滝沢望さんとの出会いは今から1年半ほど前の、ある取材がきっかけでした。「ジャズジャパン」誌の取材の仲立ちをしてくれた方が望さんの知り合いだったのです。その方とは取材後は音信が途絶えていたのですが、今年(2018年)7月の初旬に突然電話をいただきました。
「私の知り合いに滝沢望というシンガー・ソングライターがいて、ニューヨークで素晴らしいレコーディングをしてきた。ついては力になってもらえないだろうか」
わずかな繋がりから、思いがけない出会いが生まれることもあるんですね。彼の依頼で7月18日に望さんと会う約束をしました。お目にかかる前に、望さんからニューヨーク録音のCDも送っていただきました。ご当人と面会する以上、きちんと音源を聴いておくのは礼儀です。
ジャケット・デザインはニューヨーク録音らしく、イースト・リヴァーの河畔の手すりに腰を掛け、ギター・ケースに手を置く望さんの写真で飾られています。2017年12月にブルックリンのスタジオで録音した当時の撮影で、望さんはトレンチ・コート姿。音源を聴く前に、まず望さんの表情に魅せられました。川面と対岸マンハッタンのスカイラインを背景に、ブルックリンの風景を凝視する望さん。その目が彼女の全てを物語っているように感じられたのです。
そしてCDを聴いてさらに感じたことは、この人は音楽の創作と歌唱を通じて、言葉と音で「物語」を作ろうとしている、ということでした。その物語は、もちろん聴き手に語りかけるものですが、それだけではありません。
望さんの音楽の素晴らしさは、自分自身に対して、自分とは何か?を解明しようというスタンスを持っている点にあります。と言っても独善的なものではありません。もっと真剣な自己探求。心の奥底の暗闇に目を凝らし、自分は何者か?を問う行いです。
アルバム『NOZOMI』の一曲目、ジョン・コルトレーンの「ナイーマ」。彼女はコルトレーンの演奏を聴いてある詩人の作品を連想し、自ら英訳して歌っているのです。
「Embraced by infinite universe, Gravity of love in this endless time, If I’m all alone, I will be gone, What so ever like my own breath, I call your name, I hold your hand」
これが望さんの訳詞の全文。大意は「無限の宇宙、果てしのない時間の中で感じる孤独感。その隔絶を癒すのは人と結びつくこと」
「ナイーマ」を聴いて、望さんはこんなイメージを描き、既知の詩人の作品を連想したのです。ジャズ側の人間として、僕はこの曲を50年以上にわたって何度も聴いてきましたが、こんな風に受けとめたことはありませんでした。そう言えばコルトレーンだって、一曲一曲に固有の物語を語っています。それも、自身に向かって何かを問いかけ、答えを得るように物語を紡いでいます。
こまでの予備知識と、僕なりの解釈を得たところで望さんに会う日がやってきました。 お目にかかって驚いたのは、ジャケット写真のロング・ヘアーがすっかりショートになっていたこと。そして憂いをふくんだ写真とは別人のような柔和な眼差しでした。
まず最初に質問したのは、この「ナイーマ」のことでした。どうしてあのような連想が働いたのだろう?
「この曲からは宇宙を感じました。引力のない世界で、まるでお母さんのお腹のなかで羊水に浮かんでいる感覚。命を与えられ、いまここに生きている幸せというイメージです。この詩はわたしが尊敬する詩人、松兼功さんの“やさしさの引力”という作品です。浮遊感に魅かれました」
そう言われればコルトレーンも「マイ・フェイヴァリット・シングス」あたりから、なかなか和音解決しない浮遊感がありますね。詩人、松兼功氏について望さんはこう言います。
「松兼さんは、脳性麻痺による四肢機能障害をもちながら、詩やエッセイなどの創作活動を行っています。手がご不自由なので鼻を使ってタイピングするのです。彼の詩に感銘を受け、ぜひ曲を付けて歌ってみたいと思い、お目にかかりました。松兼さんの詩のもっている人に対するやさしさに心を動かされたのです。大きなハンディを背負いながら、どうしたらあのような寛大な心をもてるのでしょう。私は彼と会って、自分のなかにあるバリア(障壁)に気付かされました」
松兼氏は望さんの希望を快諾。彼女は氏の「初夏の息吹」に作曲しデモンストレーション用の音源を作ります。それをかねてより共演経験のあったニューヨーク在住のギタリスト中井勉氏に送ったことが『NOZOMI』の録音につながりました。中井氏が詞曲の素晴らしさに気付き、みずからプロデュースとアレンジを引き受けてくれたのです。望さんの個性的なフレージング、ブルージーな声質が気に入ったようです。それ以上に、望さんの「物語」への意思が中井さんを動かしたのかも知れません。
中井さんはニューヨーク録音のためにサリヴァン・フォートナー(pf)、ロニー・プラキシコ(b)、ドゥエイン・クック・ブロードナックス(dms)という素晴らしいメンバーを集め、スタジオも決めてくれました。
こうして完成された『NOZOMI』。これは望さんの強い意思に共鳴した松兼功氏、中井勉氏、そしてニューヨークの優秀なミュージシャンによるコラボレーションです。望さんが各界で一流と目される人々を動かしたのは、彼女の「バリアを超えよう」とする心だと思います。
人間の心は美しいだけのものではありません。誰の心にも、幼児の心のなかにも邪悪なものが潜んでいます。この真実を彼女は「物語る」ことによって描いたのです。「初夏の息吹に」はこんな一節があります。「君がいるから結ばれて、新しい“家族” 愛がふくらむ Happy Birthday」次の一節。
「嫌われてしまうような日がくるかもしれない、昼も夜もすれちがい」ここには希望と不安があります。不安は希望の大きさに比例するものです。出会いの歓びに打ち震えながら、心の片隅に兆す不安感。松兼さんの詩がもっている人間存在の物語。望さんはここに魅かれ、自分の琴線の高鳴りを感じたのです。歓喜だけを語ってもストーリーにはなりません。不安だけを語っても同じです。二項が葛藤するから深みのある人間の物語になります。
『NOZOMI』に収められた曲には、オリジナルだけではなくコルトレーン作品やセロニアス・モンク作品「ブルー・モンク」のようなジャズ・コンポジション。ジョージ・ガーシュウィンの「ファシネイティング・リズム」、ジョニー・グリーンの「ボディ・アンド・ソウル」などのスタンダード・ソングも含まれます。こうした名曲にも必ず「物語」があります。
望さんがそれらを、どれほど意識的に選んだか否かは問題ではありません。望さんが仮に無意識に選んだとしても、閾値(ある反応を呼び覚ます最小の値)に応えるものが、彼女の心の奥底に育っていたのですから。バリアへの気づきも、その萌芽の一つだったのでしょう。
望さんが精魂をかたむけたアルバム『NOZOMI』に耳を澄ませば、きっと彼女の「物語」の世界に引き込まれていくと思います。
最後にニューヨークで録音したメンバーの皆さんの、滝沢望さんに対する印象をご紹介します。
I enjoyed working on music with Nozomi and all the musicians who contributed to her CD,and tour in Japan. I really like Nozomi's compositions and her openness to perform many style of music, and her way of interpreting songs. I'm looking forward to performing with her in the future.
By Lonnie Plaxico(B)
Nozomi is a very talented singer and composer. She has a beautiful spirit and personality that shines through in her music. I am very honored to be a part of this project.
By Sullivan Fortner(Pf,Rhodes)
Working with Nozomi Takizawa was a joy. First recording her debut CD, which showed me her talent as a writer. Then the 2018 Japan tour, which showed me her gift as a motivated singer, band leader and performing artist. She's a talented young lady who's about to do big things in music!
By Dwayne “Cook” Broadnax(Dr)
ニューヨーク録音決定前に彼女から届いたサンプル音源を聴いて、彼女が持つ才能を瞬時に感じました。僕がニューヨーク生活で培った経験とノゾミが持つ独創性がいかに融合調和するのか、自分の中で挑戦でもありました。ジャンルは関係なく、良い音はボーダーレスであると信じ続けてきた。それを今回のアルバムで証明出来たと感じています。ノゾミの素晴らしい作曲能力、生まれ持った美声、更なる活躍を信じています。どの国でも、誰が聴いても、彼女のハートを感じてもらえる作品です。ボーダーレスな作品を一人でも多くの方に聴いていただきたいです。
中井勉
小針俊郎(ジャズ評論家)
LIVE REVIEW
デニス・ランバード × 滝沢望 東京 銀座 No Bird
滝沢望には正真のジャズ・ヴォーカリストだけが持つサムシングがある。オーソドックスなジャズ・ヴォーカルのファンにとって、甘い滑舌、ファルセットの多用、トゥイストする発声などあまり歓迎するところではないだろう。
リズムや音程とともにエロキューション技術が高いほど評価される傾向があったことは事実だ。
この常識はサラ・ボーン、アビー・リンカーン、カサンドラ・ウィルソン、そして、ノラ・ジョーンズなどによって少しずつ塗り替えられていった。
滝沢望はその後裔として現在の日本のジャズ界にあらわれた逸材である。いや、本人はジャズ・ヴォーカリストとして規定されることに抵抗があるかもしれない。
彼女の作詞作曲、歌唱を構成する要素は、ジャズ成分のほかにR&Bや日米のポップスなどが複雑に入り混じっている。
それこそが現今のジャズ・ヴォーカルだと首肯させられたライブだった。
まず凄腕メンバーによるブルースの『1. ナイト・ワーカー』と複雑な構成の『2. ウェブズ』。両極ともデニスのオリジナルで、シンガーのショウとしてはシリアスな幕開け。全体にいえることだがトリオの中核をなす中村のベースがひと際の迫力を生んだ。
演奏に続いて滝沢が紫のラメ入りロングドレスで登場し、ロバータ・フラックの『3. フィール・ライク・メイキン・ラブ』から歌い始める。滝沢独特の発声が、吐息、囁き、ファルセット、野太い声、美しい中音域と七変化して客席を圧倒する。
『4. ベンジョイ』は滝沢オリジナルで自作の英詩を自在に歌い込む。英語の強弱アクセントを使い分け、ファンク・シンガーのようなリズム感を披露する。
『5. 初夏の息吹に』もオジリナルで初夏に生まれた幼子への祝福。旋律と日本語のシラブルが合わない箇所を独特のフレージングで歌い、聴き手を別世界にいざなう。別世界への鍵はファルセットのへの跳躍だ。この節とりは日本や東アジア固有のものでも、R&Bのものでもはたまた桑田佳祐のものでもない。モンクやコルトレーン作品も手掛ける滝沢独特のものだ。このセンスに共鳴できないと滝沢の歌には入れない。しかし場内は彼女への共感の気持ちがじわりと満ちていく。
トリオによる『6. アイ・ウィル』を挟んで『7. プロミッシング・ヒル』は友人の結婚式のために書いたオリジナル。ここでは芯のある強い声。跳躍して高音にピタリと当てる技術が冴える。このように個性豊かな滝沢だが、オリジナルからジャズ・コンポジション、スタンダードまでレパートリーは幅広い。そのどれを聴いても、その光は、21世紀の邦人ジャズ・ボーカリストの在り方を探る道を照らすものになるだろう。
<Set List> 1st
<Set List> 2nd
Encore
小針俊郎(ジャズ評論家)
LIVE REVIEW
一瞬一瞬に様々に遷移していく女の顔。滝沢望のマジックに幻惑されたライブ
滝沢望が演じる女性像はどこにあるのか?彼女の歌を聴くと小さな波のうねりが寄せてきたかと思えば、一瞬後には怒涛にも変化する。聴き手の心に寄り添うように近づいたかと思えば、遠のいていく。滝沢はNY録音のデビュー作「Nozomi」を去年発表し、ロニー・プラキシコなど彼の地の実力ミュージシャンと交友した。
そして、今年の2月から勉強にためにNYを再訪。その効果の現れか”JZ Brat”のライブでの声は一層強くなり、色彩感の鮮やかさも数段進歩している。こうした技術に支えられた彼女は、生身の自分と鏡の中の自分との間を行き来しながら歌を進化させたと感じた。
鏡像云々はもちろん比喩だが、人間の営為に筋の通ったことはむしろ橋であり、時に分裂に苦しむ。その人間の実相を滝沢は自ら声と体を使って表現している。そこに現れるのは喜びと憂、虚と実、生と死。それらは『2.ラブ・ユー・マドリー』『3.ファシネイテイング・リズム』のような馴染みの曲にも感じられる。
原曲に忠実に歌うというよりも声と言葉が飛び散り弾ける。それが七色に帯びるから歌意の深い部分が伝わってくる。一転、キンバル・ブラウンが加わる『4.わだつみの木』ではレイジーに歌詞を投げて愛想もない。しかしその陰影にニュアンスがこもり説得力を生んでいる。意図してのことだが敢えて音程を揺らして安定感は排除される。跳躍音程では、まず上または下の音に入り、ポルタメントして正しい音程に移行する。
音程には自信のないものがやると聞き苦しいが滝沢の場合は手段化しているのだ。必要ならばいくら跳躍高が大きくてもピタリと当てる技術を持っているのだから。それはオリジナル『6.初夏の息吹に』などを聴いても明らかだ。『6.初夏の息吹に』はバースデーにふさわしい滝沢のオリジナル。彼女らしく旋律と詩のシラブルが言葉を伸縮させながら歌詞の祝意を伝えていく。正確な音程、透明感のある声がよく伸びてそこに幸福感が浮び上がる。彼女と相性が良いデニス・ランバードのピアノがこうした場面でひと際映える。
『7.ギフト』は8ビートで、彼女の不思議な滑舌と合って快適なグルーブを生んだ。名手、井上陽介の存在は大きい。このように一夜のライブで多面性を見せる滝沢。曲調というよりも、曲の一瞬の変化に即応して悲喜様々な女の顔が遷移していく。そこに玄感された一夜だった。歳を重ねその繊細な表現にますます磨きをかけて臨んだ今回のバースデイ。女性としても人間としても充実の時を迎えた彼女の今後が楽しみである。
<Set List> 1st
<Set List> 2nd
Encore
Personnel
Guest
小針俊郎(ジャズ評論家)
LIVE REVIEW
海外でジャズ・ヴォーカル武者修行まで敢行してきた成果が今回明らかに浮き出ていた
豪華メンツのギター・カルテットによるガッツある演奏で、ステージは開始した。
勢いあるファンキーなピアノ演奏、粋なバップ・ラインを単音で構築するギター・ソロ、ウッディかつハードに唸りをあげるベースのピチカート、ブレイキー級の重量打を叩き込むドラムのバース交換。
その最終パターンをチェイサーに(プロミッシング・ヒル)と(B/ENJOY)の配信を開始した滝沢望(Vo)が登場。6月のバースディに続き、同年2度目の渋谷JZbratでのパーティだ。
ジャズ本流とも異なる野性味と憂いを具有した節回しと、太く達者な英語発音を武器に、生来の高度な歌唱力で音を思わぬ色合いに染めていく。
一昨年のメジャーデビュー時グラミー賞奏者らとNY録音を果たし、同地やカリフォルニアの大型フェスへの出場を体験した。
次いで、昨年もロニー・プラキシコを音楽監督に前出配信曲を収録。仕上げに単身NYとボストンでの、ジャズ・ヴォーカル武者修行まで敢行してきた。
そうした成果が、今回明らかに浮き出てきた。ラメ閃くドレス姿で、ブラシが刻むリズムに深みあるそのヴォイスを絡ませる。
冒頭から我々はこの見た目に反する”褐色の歌声”...並外れて大胆な黒人風ソウル・ヴォイスに圧倒されっぱなしとなる。
各ソロは言うまでもなく、それへ続く怒涛のヴォーカルがいずれの楽曲でも驚かせるのだ。
いきなりドラムとスキャットの交感がはじまり、ラテンとジャズの攻防を鮮やかに立ち回り、演歌は巻き舌の和風ブルース風に野卑なドスを効かせる。
ゲストの山崎ユリエ(as)迎えると、日本語の自作ファンク・バラッドを披露(滝沢はシンガー・ソングライター時代が長く、ジャズはそのうちのまだ半分)。
山崎はこれへサンボーン風のキレキレ・プレイで応じ、新曲B/ENJOYには高澤綾(tp) の悩ましげなミュート演奏を迎えラップ調の英語(実は英語)を乗せる。
両国語に堪能な彼女ならではの挑戦だ。自ら"ハイブリッド・デトックス・ソング”と称したが、その真相はぜひ配信動画にて確かめられたい。
ジョー風に一人ピアノ席に座り、ふと歌った弾き語り曲も観衆の心をかっさらうのに十分だった。
曲ごとに表情を変えながらどれもが彼女以外の何者でもなく、ソウル/ファンク/R&B/フュージョン/ブリティッシュ、ゲストがくわらればブラス・ロックの様相も帯び、豊で豪華な音の海に飲み込んでいく。
アンコールのワルツ・バラッド曲のその口跡に受けた体の震えを当分は忘れないだろう。
<Set List> 1st
<Set List> 2nd
Encore
重森洋志
滝沢 望 × 中井 勉
“褐色の声を持つ奇才”と称されるシンガー・ソング・ライター滝沢望。そのデビュー作『Nozomi』(6月27日発売)をプロデュースしたのは、意外なことに長年NYを中心に活躍するジャズ・ギタリストの中井勉だ。
一見不思議にも思える組み合わせに興味津々。7月1日に品川プリンスホテルのclub eXで開催された発売記念ライヴの模様をお伝えしよう。
会場となったclub eXは品川プリンスホテル内にある円形ホールで、中央の丸いステージを360度回転させることも可能だという。
この日は約120度の角度に客席を配置し、丸いステージ上には左側からフェンダー・ローズ、グランド・ピアノ、ギター・アンプ(中井所有のアコースティック・イメージ製アンプ・ヘッドClarusとレイザーズ・エッジのスピーカー・キャビネット)、ベース・アンプ、ドラム・セットが設置されている。そして大きな拍手に迎えられて、長いアプローチを笑顔で歩きながら、今や最も注目されているピアニストの1人として多忙を極めるサリヴァン・フォートナー、素晴らしいグルーヴ・ドラマーのデュエイン・クック・ブロードナックス、引く手あまたの大人気ベーシストのロニー・プラキシコ、そして彼らのリーダーとしてNYで活動するギタリストの中井勉が愛器ギブソン製Johnny Smith Modelを抱えて登場。まずはあいさつ代わりにジョビンの「ジンガロ」で幕を開けた。さすがフォートナーとプラキシコというグラミー賞受賞ミュージシャンを擁した凄腕だらけのバンドだけあって、一瞬にして会場をNYのジャズ・クラブの空気に変えてしまった。
喝采の中、このライヴの主役である滝沢望が登場した。ステージ中央に立ち、回り始めたミラーボールのきらめきの中で歌い始めたのは、中井が彼女のためにアレンジした「ナイーマ」。彼女のCDのオープニング・チューンだ。
すこしハスキーな滝沢の声が見事にアレンジとマッチしている。続いてCDの2曲目に収録された滝沢のオリジナル曲で、作家・コラムニストでもある作詞家の松兼功が歌詞を手掛けた「初夏の息吹に」。フォートナーの美しいピアノが印象的で、そこに滝沢が優しく歌う日本語の歌詞が心地よく耳と心に入ってくる。そしてプラキシコのアレンジによる「ファッシネイティング・リズム」で一気にNYに戻る。
中井のストレートで美しいジャズ・トーン、小粋なフォートナーのフレーズ、プラキシコならではのアイディア溢れるベース・ライン、見事なハイハット・ワークと笑いを誘う演出で魅せるブロードナックスのドラム、そして滝沢の合図でビシっと決まるエンディング。
もうこの5人はバンドだ! MXR社のCarbon Copyのエフェクトを活かした中井のアルペジオから始まる8分の6拍子の滝沢のオリジナル曲「ニジイロノオト」では、まるで宙を舞うような歌声が、英語そして日本語の歌詞で、NYのミュージシャン達が奏でる虹の上で響くような世界を披露し休憩に入った。
第2部のオープニングは昨年5月にリリースした自身の第3作『Myrtle and Gold』からタイトル・チューンのジャズ・バラッドでスタート。
この作品は、中井のレギュラー・トリオ作で、プラキシコもブロードナックスも参加しており、ピアノにはマイケル・カナンをゲストで迎えた秀作。ギターの単音の美しさを最大限に活かしたプレイは中井の真骨頂で、ヴィブラート1つの掛け方からも、1音を大切にしていることが伝わってくる。
そして滝沢が登場し、プラキシコのアレンジによる「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」を、ゆったりとしたグルーヴで実に大人っぽく表現する。
途中に表れるフェンダー・ローズによるホールトーン・スケールのヴァンプも美しい。続く「ボディ・アンド・ソウル」は中井によってボッサ・フィールにアレンジされており、全員が笑顔でコンタクトを取りながら進行する。
ここでの滝沢の歌唱は、ストレートでありながら独自の個性を強く感じさせるものだった。次に披露されたのは、滝沢のオリジナル曲で歌詞は松兼功との共作の「ギフト」。16ビートのドラムとベースの上に中井のカッティングが乗り、フェンダー・ローズならではのサウンドが描き出す世界の中で、ウィスパリング・ヴォイスからパワフルな歌唱へと自在にコントロールする滝沢の表現力は特筆に値するものだった。
そして第2部最後の曲となり、Yuki Nagataと滝沢の共作によるメロディに松兼功の歌詞がマッチングした「涙が泉を満たせたら」が満場の聴衆の心に潤いを与えて幕を下ろし、全員がステージをあとにした。
鳴りやまぬ拍手に応えて再度ステージに戻るミュージシャン達。
ここで滝沢と中井が、今作に至るまでのストーリーを語り始めた。
中井は「NYを訪れていた望さんと収穫祭のパーティーで知り合ったんです。そして彼女のシンガー・ソング・ライターとしての才能に魅力を感じるようになりました。その後も僕が帰国したときには交流を深め、自分のNYのメンバー達との共演によって、彼女の魅力を最大限に引き出せると確信して、この『Nozomi』をプロデュースすることを決めました。メンバーもみんな望の才能と可能性を知っていましたからね」と語る。
滝沢は「こんな素晴らしいメンバーでデビュー作を作れて、こうしてみなさまに披露できることは幸せなことです。感謝しかありません」とその感慨を語った。
そしてアンコールは「私がギターを弾きながら歌っていた頃からのファンキーな曲をお届けします!」と言っただけで会場から大きな拍手が沸き起こる。
彼女を応援し続けてきたファンへの感謝を込めて「エンジョイ」が届けられた。それでも鳴りやまない拍手に再度ステージに、お揃いのオリジナル“Nozomi”Tシャツを着て登場し、CDの最後の曲でもあるセロニアス・モンクの「ブルー・モンク」で幕を閉じた。
このステージと作品を通して感じたのは、滝沢望のシンガーとしての表現力の幅の広さと作曲能力の高さ、そしてキュートな人間性と音楽への熱意だ。それらが中井の心に火をつけたのだろう。
ワールド・クラスのNYのミュージシャン達と滝沢を結び付けて、まるで1つのバンドのようにハイ・レベルな状態にするには、中井の人間的魅力とコミュニケーション能力、そして強力なリーダーシップがなければ成しえない。少々気が早いかも知れないが、次なる滝沢と中井による作品にも期待が高まる。そんなライヴだった。
<セット・リスト> 第1部
<セット・リスト> 第2部
Encore
山中弘行(ジャズ評論家)
ライブに関するお問い合わせは、『予約受付』を選択し、お名前・電話番号・Eメール・メッセージ欄に参加人数、公演日、公演場所も記載ください。
公演日、公演場所も記載ください